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~旅と人生と丸山ゴンザレスさん Vol.3~
「Life is Journey」
ジャーナリスト、旅行作家、編集者 丸山ゴンザレスさん
嘉納 世の中のいろいろな悲惨な場面も見てきていると思うのですが、それで人生観が変わったり、価値観が変わったり、思い悩んだりすることはないですか?
丸山 ないです。僕が生きてきた約40年はそんなに軽くない。多少世の中の現実を突きつけられたからって、変わってしまうような安いものではないと思っているんです。それにある程度客観的に突き放してみている自分がいないと、その話が面白いのかどうかの判断ができなくなるので。もちろん、例えば貧困地帯の子供達を見てかわいそうだなと思います。でも僕には何もできない。僕は、人が人を救うって、一生かけて1人くらいしかできないと思っています。それぐらい大変なんです。だから、耳障りが良いだけで、できもしないこと言ってもしょうがないと思う。中途半端に面倒見るのが一番良くないので。だって恵まれない子供達に学校を、とか言って僻地やスラム街に作っても、その後に廃墟になっているところもありますから。夢見させるだけ見せて結果がこれじゃ、ある意味残酷なものです。そういう責任の取れないことを僕はしたくないんです。
考古学とジャーナリズムの相関関係
「僕は別に暗部を世界に晒したいわけじゃない」
相田 丸山さんは元々考古学を勉強されていましたが、今のお仕事との相関関係ってあるんでしょうか?
丸山 考古学というのは、発見されたモノから社会を復元する学問です。だから、現場に断片的にある証拠や現象から物事の本質を読み解くという発想はジャーナリズムも一緒なんじゃないかと思っています。実際どうかは知らないけれど、少なくとも僕の中では一緒。例えば、とある現場に注射器が落ちていました。これってどういう事なんだろう?と読み解くのは、遺跡から発掘したものを検証するのと同じ作業。だから“考古学とジャーナリズムが似ている”のではなくて、僕の中でのジャーナリズムというのは考古学がベースにあるということかもしれません。
相田 とある取材で丸山さんが「暴きたいわけじゃない、立体的に見たいだけなんだ」とおっしゃっていたのですが、その真意は?
丸山 誤解して欲しくないのですが、何も僕はその国の暗部をほじくり返して晒してやろうって思っているわけじゃないんです。そこを知ることで、その街だったり、その国だったりが、もっと分かりやすく見えてくるということを伝えているんです。例えばアメリカを抜きにメキシコの麻薬戦争って語れないんだけど、世間的にはどうしてもメキシコの麻薬戦争ばかりに注目が集まる。でもビジネス的に言うと、需要と供給がマッチしているために起きる減少なんだから、片方だけを見るのは不完全ってことですよね。でもそういうのはあまり聞かれたくないわけですよ。そんな風に、全体を立体的に考察するために、いろんなパーツが必要だということ。それは結果的に何か不都合なことを暴くということになるのかもしれないし、その国にとって隠したいことかもしれないけれど、でも決してそれが目的ではないです。ただ、見たいものを見たいように見てしまうよりは良いんじゃないかなと思ってますけどね。
嘉納 裏社会ばかりを見すぎると、達観してしまいませんか?
丸山 全然。僕なんて表層をさまよってるだけだと思っていますから。
相田 まだまだ探りたいことはたくさんありますか?
丸山 毎回、やりたいことが尽きたなと思うんですけど、気が付くとまた新しいことを始めていますね(笑)。
ところで丸山ゴンザレスさんは
どんなカバンを使っていますか?
相田 ところで、世界中を文字通り駆け回る丸山さんですが、普段どんなカバンを使っているんですか?
丸山 場合によって使い分けるんですけど、バックパックはモンベルのやつを使っていて、他に多いのはニューエラかポーターです。基本的に使いやすさ重視ですね。
嘉納 使いやすいというのは?
丸山 やっぱりスポーツメーカーのバッグは機能的ですよね。仕切りが効率的だったり靴だけのコンパートメントがあったり。そういうのが僕のスタイルに合っていたりすることが多いんです。やっぱり一番大事なのは、無駄なく収納できることなので。だって空気を運ぶのが一番意味ないでしょ。隙間なくみっちり詰めることができる。それがポイントです。
相田 行き先によって使い分けはされますか?
丸山 しますね。例えば取材先がニューヨークだったらバックパックだと浮くので、メッセンジャーバッグとか、小ぶりのデイパックとか、ニューヨーカーが好きそうなやつで行きます。
嘉納 場に馴染むのが大事?
丸山 そうですね。取材のときは特に。旅行者に見えないっていうのも大事だったりしますから、そういう目線で選ぶこともありますし。ただ手は絶対に開けておくようにしています。あとは、スリが多いところは斜め掛けで、強盗が多いときはリュックかな。
相田 なるほど、勉強になります。
丸山 ビジネスっぽいものとかが必要なときもあります。例えばニューヨークとかの大都市でインタビューするときに、相手が地位のある人、例えば政治家だったりとか、そういう人に会うときはそれなりの格好を意識します。だから兼用できるバッグは重宝しますね。カジュアルだけどビジネスっぽくも見えるものとか。革靴っぽく見えるけど実はスニーカーみたいな(笑)。
「レザーのバッグは持つことはほとんどないなぁ」と丸山さん。「でも政治家とか警察の偉い人とか、ステータスの高い人と会う予定があるときは、きちんとしたものを持っていくようにはしています。このバッグもサイズ感がちょうどよくていいですね」。
相田 中身は主に何が入っているんですか
丸山 パソコン、iPad、チャージャー、タコ足用のタップ…。あとはメモ帳とか文房具くらいかな。あ、あとタバコは多めに。
相田 現地ではなかなか手に入らないからですか?
丸山 タバコって通貨がわりに使えるんですよ。お礼に小銭払っていたら追いつかないから、代わりにタバコをあげる。結構喜ばれます。
嘉納 確かに。海外でタバコをあげるとみんな親切にしてくれますよね。
丸山 そうそう、撥水機能とか防水機能は絶対ですね。電子機器もそうだしメモ帳とかの紙ものも入っているから。それになるべく手を塞ぎたくないから、雨が降ってもあまり傘はささないし。最近は各社工夫しているからだいぶ良くなったんですけど、10年前とかは防水機能が付いている方が珍しかったので、ダイバー用のバッグとか使っていましたもんね。でも、ハイドロフォイルでしたっけ? いいですねこれは。軽いし、撥水性もあるし、便利そうです。
「これって何ですか」と笛に興味を持つ丸山さん。災害時の役に立つためのアクセサリーだ。「面白い。撥水性もしっかりあって、僕みたいに傘をささない人間には助かります」。
相田 逆に、丸山さんが海外を見て回る中で、カバンとか持ち物を観察されてどうですか?
丸山 カバンはその人がどのくらいのステータスにいるのかの判断材料になりますよね。そういえばつい先週、NYのイーストビレッジを歩いていたんですが、ズタズタに割けたスウェットとボロボロのスキニージーンズを履いて犬の散歩をしている女の人を見かけたんです。どっちかなって思ったんですが、バッグがルイ ヴィトンのブリーフケースだったので、ああそっちかと(笑)。そういう意味では、とても重要なアイテムですよね。
¥49,000(税抜き)H31×W48×D12cm
¥59,000(税抜き)H29×W42×D14cm
最後に聞きたいこと全部!
そして、丸山さんにとっての『旅』とは?
相田 聞きたいことは尽きないのですが…最後にいくつか! まず、オフの日は何をしているんですか?
丸山 オフはないですね。ずっと仕事しています。でも海外に行くために情報を収集したりすることはって、一般的な人にとっては息抜きみたいなものでしょ?(笑)
相田 では、息抜きや趣味は?
丸山 キザ10(側面ギザギザの10円玉)を集めること。
相田 名前の由来は?
丸山 特にないです。音と字面だけ。怪獣っぽく。
相田 まだまだやりたいことはつきませんか?
丸山 尽きたと思っても自然と湧いてきます。
相田 丸山さんは情報を発信する側ですが、情報を受け取る側に期待することはありますか?
丸山 疑ってかかってほしいです。もちろん、僕が言っていることも。それは変な疑いじゃなく、自分にとってその情報はどういう位置づけなのかという意味での疑いです。世の中に対して常にファクトというふうに提示されているものから派生して、そのことが合っているのかな? どうなのかな? と自分に問いかける意味です。プロセスとか結果を検証するスキルとか能力を皆さんが高めていってくれたら、ニュースというものが面白いんだということにたどり着くというか。僕も疑ってかかって取材しています。そうやって僕が発信した情報によって、その人の人生に何がしかのさざ波というか、影響が出てくれたら面白いなと思っています。
相田 丸山さんにとって旅とは?
丸山 好奇心を満たす最良の手段。自分が今いるところじゃないところに行ということは、違う価値観に囲まれているということだから。そこに対して興味が持てなくなったら、好奇心が死んでいると思うんです。
相田 旅をすることは大事だと思いますか?
丸山 それは人によります。少なくとも僕にとっては大事。そこは押し付けたくないし、旅が必要じゃないという人はそれでいいと思う。僕も、老いたら旅せず思い出と対話するという時間も必要になってくると思うので。
相田 今回はありがとうございました!